「それね、ヨモギでないよ」
4月12日(木)
この頃日記ぽくないけど、子供の頃の春の思い出を私小説風に・・・。(笑)
子供の頃の春にはヨモギのお餅をいっぱい食べた思い出があります。
北海道上川郡字旭正。
隣村に住む母方のキクおばあちゃんが毎年こさえて、持ってきてくれるのでした。
大雪山のふもとに近い僕の村もさすがに5月ともなると、春満開。
道端には野草やタンポポがいっぱい咲いてます。
キクおばあちゃんが帰る日、途中まで送って行くと言う僕と手をつなぎ、道端の草を指さして「これがヨモギさ、お餅にまぜるとおいしいんじゃ」と教えてくれたものでした。
自転車に乗れるようになった頃でした。
さんざん遊んだ帰りでした。砂ぼこりを上げる乾いた田舎道の端っこに光るような緑色の草の群生を見つけました。
普段なら見過ごす僕が、「なんだろ」と思うくらい、それは立派な深い緑色の小さな低いテーブルのようでした。
「ヨモギだ!」
いつかキクおばあちゃんが教えてくれたヨモギに違いない。
このところ自転車で遊び呆けてばかり。母に怒られてばかりの僕は考えた。
父さんが町で飲んだ帰り折詰のお土産を持って帰ってきた時、母さんが「しゃあないわ。今日はこのお土産で勘弁しましょ」と言いながら、ククッと笑ったのを思い出したのだ。
僕も父さんみたいにお土産を持って帰ろう!!きっとククッと笑ってくれるに違いない。
自転車の前カゴに、あふれるくらい摘んだヨモギと一緒に得意げに家にもどりました。
「かあさん!お土産さ!ヨモギさ!ほらほらヨモギ!」
母は、奥で何か繕いをしていたようで生返事でしたが「ああそうかい。もうヨモギ餅の季節だもね」と言いながら、ちょっと面倒くさそうに玄関に出てきました。
そして自転車の前カゴに積まれた草を不思議そうに見た後、ゆっくり僕を見て言いました。「それね、ヨモギでないよ。似てるけどね食べられない草さ。そんなにいっぱいどこで見つけたの」
あまりのことに、ポカンとしていると「しゃあないしょ。食べれんから。早く捨ててきなね」といいながら何事もなかったように母は奥に引っ込んでいきました。
それから何十年もたった春のことでした。
僕が東京で一人暮らしを決めた頃でした。母がヨモギ餅を作ってくれました。
「覚えてるかい。あの時のヨモギ、使えんかったけどさ、母さん嬉しかったよ」と笑いながら母が言った時、時間を超え、いきなりあの緑色の偽のヨモギ草を夢中で摘んだ時にかいだ青い匂いが一瞬でよみがえりました。
そして鼻がツンとしたのでした。